コンポーザー・アレンジャー専攻並びにマスターコースのコンポーズ授業を担当されている中先生は、東京藝術大学作曲科を卒業後、クラシック/ジャズ/ロック/ポップスに至る幅広い数々のアーティスト/作品に携わられるとともに、数多くのコンポーザー専攻OBのデビュー実績にも貢献されている看板講師でもあります。以下、先生からのコメントです。

・<編曲の素晴らしさを堪能できる10曲>(一部クレジットに作曲も含まれています)


素晴らしい編曲で、コンポーザー/アレンジャーを志す人には是非、聴いてほしい曲(人)を選んでいます。サブテーマとして、日本人の編曲家と海外(主にアメリカ)の編曲家を5人ずつ選びました。



その1)「青春の輝き」カーペンターズ / 編曲:リチャード・カーペンター


 ポップスのアレンジの教科書のような楽曲を次から次へと生み出していた、リチャード・カーペンター。編曲の技術も素晴らしく、楽器の使い方などまさにお手本であり、編曲家として5度もグラミー賞にノミネートされています。しばしば原曲の作曲者ですら彼のアレンジには敬意を表していたと言われていますが、一見なんでもないようなアレンジを紐解いていくと、その発想の豊かさとそれを作品として完成させる信念が感じ取れます。


その2)「メイン・テーマ」薬師丸ひろ子 / 編曲:大村雅朗


 非常に音数が少なく一切余計なもの、無駄なものがない楽曲。しかしそれでいて聴いていて飽きてしまう、つまらないなど思い起こさせることのないとても密度の濃い楽曲がそこにあります。小気味好いリズムの変化に乗せた気の利いたオブリガートや対旋律。色彩豊かなオーケストレーション。歌う、というより歌詞の世界を演じるような薬師丸ひろ子の歌も相まって考え抜かれた構成のブックエンドで閉じたエンディングを聴き終えた時には3.30秒の映画を観たような気にもさせてくれます。


その3)「’S Wonderful」ダイアナ・クラール / 編曲:クラウス・オガーマン


 おそらく編曲をする人でオガーマンを知らないという人はいないと言ってもいいくらい重要な人物です。ジャズ/ポップス/ロックをはじめあらゆる音楽の編曲をしていますが、そのすべてが素晴らしい。中でも特にストリングスの美しさは特筆すべきで、アレンジャーなら「こういう風にしたい」と思わずにはいられません。


その4)「果てなく続くストーリー」MISIA / 編曲:服部隆之


 服部さんは技術力が非常に優れているので、さらっと流して聴くと何もしていないような気がしてしまいますが、細部まで考え抜かれた妥協の一切ない編曲がここにあります。この曲ではスケール感の大きい、流れるようなストリングスがとても美しい。


その5)「Pick Yourself Up」Ella Fitzgerald / 編曲:ネルソン・リドル

 
 ネルソン・リドルの無駄がなく美しいアレンジが素晴らしい。歌を一切邪魔することなく、それでいて躍動感のあるオーケストレーションは必聴です。


その6)「この世の限り」椎名林檎 / 編曲:斎藤ネコ


 ブロードウェイのショーミュージックを彷彿とさせる見事な楽曲に仕上げています。この曲が収録されているアルバム「平成風俗」には他にも素晴らしい編曲の楽曲が目白押しなので、是非聴いてもらいたいです。


その7)「ピーター・ガンのテーマ 」/ ヘンリー・マンシーニ


 名作曲家ヘンリー・マンシーニが手掛けたアメリカの探偵ドラマ『ピーター・ガン』のためのテーマ曲。ヘンリー・マンシーニの18番のジャズ風の音楽で、今聴いても古さを感じさせることはありません。今でも色々な場面で使用されているので、どこかで聴いたことがある人も多いのでは。


その8)「古畑任三郎 」/ オーケストレーション:丸山和範


 クレジットは編曲ではなくオーケストレーションとなっていますが、この楽曲の素晴らしさの秘訣はオーケストレーションにあるといっても言い過ぎではないでしょう。ジャンルを超越した仕上がりになっている楽曲を是非聴いてもらいたいです。


その9)「タラのテーマ」〜映画『風と共に去りぬ』より / 作曲:マックス・スタイナー


 クラシック音楽の作曲もしていましたが、のちに映画音楽の作曲家、編曲家、オーケストレーターとしてアメリカの映画音楽の初期に活躍しました。編曲に焦点をあてて楽曲を選んでいますが、この曲は作曲もマックス・スタイナーが行なっています。


その10)「赤毛のアン 」OP&ED / 作曲:三善晃


 このアニメ作品は世界名作劇場のシリーズの中で1979 年に放映されていたもの。オープニングはアニメーションと歌詞の世界観をあますところなく表現した素晴らしい楽曲に仕上がっています。エンディングはアニメーションがなく、額縁のような絵が一枚あるだけで、そこにスタッフロールが流れていくだけなのですが、この楽曲に逸話があるほどの素晴らしい楽曲になっています。